■アウトライン 南アイスランドの内陸部には1977年に完成したシガルダ水力発電所がある。シガルダは北に走るスプレンギサンドゥル内陸路(F26)と南に走る北フィヤットラバク内陸路(F208)双方の内陸側の起点となっている。 北フィヤットラバク内陸路はシガルダからこのあたりの最高峰ロズムンドゥル(1074m)に連なる大きな砂礫堆石地を抜け、南西の方向に昇り始める。その後、砂礫層の地表景観が一転して剥き出しの溶岩地の景観に変わり、尖った岩の隆起や曲がったドーム型の縄状溶岩のランドスケープの中進むと道路の左手にトゥングナアゥ川(Tungnaá)が現れる。ここらがランドマンナロイガルを中心とする面積470㎢の広大なフィヤットラバク自然保護区のエリアの入り口となる。 ここからは内陸ハイランド観光の白眉のひとつランドマンナロイガル(土地の人々の温泉を意味する)や息をのむようなエルドギャゥ(Eldgjá)断層を経由して北フィヤットラバク内陸路はスカフトアゥルダールル渓谷のファーム・ブーランド(Búland)まで続く。シガルダからの距離は84km。F208はブーランドが南の起点だが、ここで更に南に走る208号線に繋がっており、この道路を十数km南下すればエルドフロイン溶岩原のスカフトアゥルトゥンガ(Skaftártunga)でリングロード(1号線)に出遭う。北フィヤットラバク内陸路のドライブには4WD車が絶対条件で渡河ポイントも随所にある。 ■スポットガイド
★フィヤットラバク自然保護区 Fjallabak Nature Reserves フィヤットラバクが自然保護区になったのは1979年。自然保護区の総面積は470㎢で海抜は500mを超える。一帯は山が多く、火山や地熱活動によって複雑に形作られ、溶岩や砂礫に覆われ、川や湖も多い。 “山の奥”を意味するフィヤットラバクは深く裂けた谷間に荒涼とした起伏の激しい山々が連なっていることからこの名が付いた。フィヤットラバク自然保護区はアイスランドに於ける最大の流紋岩地帯であると同時にヴァトナヨークトル氷河の湖底火山グリームスヴォトンに次いで2番目に大きな地熱地帯だが、その直接の要因は自然保護区内の中心的火山であるトルヴァ−ヨークトル氷河(Torfajökull)の地形の所為である。トルヴァ−ヨークトル中央火山は活火山だが、現在、大量の噴気孔と温泉によって示されているように活動は低下しており噴気状態になっている。唯、ランドマンナロイガルの川湯温泉はこの地域に於ける地熱活動を具体的に示す多くの例の一つである。斯かる地熱活動は岩石に含まれる鉱物を変化させるので、岩石は赤や黄色から青や緑まで実に多彩の色合いを呈している。その典型的なひとつはブレンニステインサルダ山。 フィヤットラバク自然公園の岩盤は8百万から1千万年前のもので、その当時この地域はレイキャネース半島からラングヨークトル氷河に向かって走る地溝帯上にあった。火山活動は最後の2百万年間が最も活発でで、最終氷河期の間、間氷期流紋岩質溶岩と氷河の下で噴火して形成された氷河下流紋岩がこの地域の特徴的なロック・フォーメーションだ。その例はブレンニステインサルダ山とブラゥヌークル山に見ることができる。トルヴァ−ヨークトル氷河の北では、氷河下火山活動が透明性の砕屑岩の山を出現させた。ロズムンドゥル(Loðmundur)やモゥギルスホプザール(Mógilshöfðar)がその典型的な山だ。 ここ1万年の火山活動は北東〜南西にある幾つかの割れ目だけに限って見られる。最近の活動は、1480年に始まったヴェイジヴォトン割れ目噴火でランドマンナロイガルのハット傍に広がるロイガフロイン、ナゥムスフロイン、ノルズルナゥムスフロインなど幾つかの溶岩原と火口湖を誕生させた。 フィヤットラバク自然公園は絶好のハイキングサイト。長短様々なハイキング・パスがあり、その幾つかは現地で入手できるマップに表示されている。ランドマンナロイガルのハットからのスタートで人気のあるコースは、標高940mのブラゥフニュークル山(Bláhnúkur)の山頂まで(1〜2時間)と標高855mのブレンニステインサルダ山の噴気孔まで(1〜2時間)の短いハイキングルート。そのほか、フロスタスタヴァトン湖周辺を巡るコース(2〜3時間)などもある。道に迷い易いのでしっかりしたマップを入手し、ハイキングの小道から外れないようにすることが肝要。自然保護区では天候の変化も激しい。この地域では大雑把な目安だが風向きが南から南東寄りの場合には雨となり天候が悪化する。一方、北か北東寄りの場合には通常寒くなるが天候は回復に向かう。フィヤットラバク自然公園の平均気温は夏(7〜8月)で5〜14℃、冬季は氷点下6℃。 ★ビャトラル Bjallar ビャトラルはトゥングナアゥ川の直ぐ北に位置する低い山並。この山の近くのトゥングナアゥ川にはビャトラルの浅瀬と呼ばれる歩いて川を渡れるところがある。土地のファームが夏季に川の北側に羊を放牧していたが羊を運ぶルートとしてこの浅瀬が利用されていた。トゥングナアゥ川は氷河川だ。そのため、放牧のために川を渡るのはしばしば危険で困難を伴うものであった。今日ではシガルダ発電所の近くに橋が架けられている。 ★トゥングナアゥ川 Tungnaá トゥングナアゥ川はヴァトナヨークトルの西端にある舌氷河トゥンガナアゥルヨークトルを水源とする氷河川。 ★フロスタスタザヴァトン湖 Frostastaðavatn ⇒ トルドゥマダールル・ハイランドロード「フロスタスタザヴァトン湖」 ★ランドマンナロイガル Landmannalaugar 内陸部に入ったフィヤットラバク自然保護区にあり、まさに活発に活動している地熱地帯。含有する鉱物により黄金色、緑そして深紅など色鮮やかな山並みに囲まれたオアシス。多くの温泉と冷たい湧き水が混じりあって温かい温泉川をなしている。丁度良い湯加減の温度であるため、露天風呂も楽しめる。温泉川の土手は湿地状態で水面の上昇を抑える緩衝緑地帯となってここへの踏み込みは禁止されていて、温泉を楽しむ時には板道を通ってプールに入る事。また、温泉川(プール)での石鹸の使用は禁止されているので注意。海抜が600mを超えているものの、川の土手は草花で覆われている(夏季)。トレッキングにも最適。 ランドマンナロイガルにはカラフルな流紋岩の山々に囲まれキャンプ施設があって、キャンプ場の中にはアイスランド・ツーリングクラブが運営するハットがあり、スリーピングバッグ用の宿泊施設もある。ハットは2階建てで、収容人員は78名。バンカーやマットレスでの宿泊となる。ハット内は地熱利用の熱湯暖房。トイレ、シャワー施設、温泉ポット、クッキング施設が整っている快適な山小屋。マウンテンハットはここの名物温泉川とは目と鼻の先。マウンテンハットのある側は高く急斜面のロイガフロイン溶岩原。溶岩面はギザギザとして鋭いが、迷路のように入り組んだ小道になって散歩道になっているので時間の余裕があればハイキングを兼ねて歩いてみたい。遠くから見ると溶岩は黒く見えるが近づいて見ればその幾つかは鮮やかな濃いブルーカラーを呈し ★ヨークルギルスクヴィースル川 Jökulgilskvísl ヨークルギル渓谷を流れる川。水源は多くの冷たい湧き水の集まりとトルヴァヨークトルとレイキャフィヤットル山の小さな氷河の繋ぎから融氷水流。ヨークルギルスヴィースル川は水量が多く1966年に橋が架けられるまで渡河は極めて困難だった箇所。この附近は丘陵も砂礫床も黒ずんでいて暗いイメージの光景がほとんどだがたまに赤や茶色をした流紋岩の丘陵が見られる。 ヨークルギルは長さ13kmの狭い渓谷。ランドマンナロイガルから南東へ、流紋岩のカラフルな景観の中に切り入っている。伝承によれば、クロゥビというファームからやって来たソゥルドゥルという名前の農夫が疫病が発生したとき、ヨークルギル渓谷に逃げ込んだ。その時節、谷間には草木が生え、樹木も茂っていて、谷は氷河に囲われていたという。今日、谷間は植生がなく不毛で、往時の繁栄の痕は何も残っていない。土地の農夫たちは山地に羊を放牧したけれども、秋になって羊を集めるときに谷間では羊を探しに入り込むことは決してしなかった。彼らは毎年数匹の羊を失った。彼らは谷間に住む無法者か悪霊が盗んだと言い張った。1852年にこの地域は徹底的に探検された。その結果は無法者が住んでいた痕跡もそれ以外の何者の存在も発券する事がなかった。それ以降、農夫たちは谷間を羊集めの計画の中に含めるようになり、今までより多くの羊が数えられるようになったという。 ★キルキュフェットル Kirkjufell ”教会の山”を意味するキルキュフェットルはキーリンガヴォトン湖近くのF208沿いにある流紋岩質の山で、標高964mだが際立って目立った存在。山の頂は平らで真っ黒な石と黒曜石の急勾配の地層で凸状になっている。下方の小石はグレーかかったブルーでほとんど不毛の荒れ地。地質学者によればこの山の創造は氷河期の最後の時代の氷河下噴火が続いた頃。現在の玄武岩質のテーブル山が形成されると同じ方法だ。山の東側の麓には小さいが深い湖キルキュフェットルスヴァトンが横たわる。 ★ヨークルダーリル Jökuldalir 標高1048mのティンダフィヤットルなど印象深い山々に囲まれた渓谷。 ★エルドギャゥ Eldgjá 「火の山峡」を意味する、息をのむような光景に出会える長い噴火による割れ目(亀裂)。断層のすぐ南に位置する標高812mの凝灰岩の山ヘルズブレイズ(Herðbreið)からエルドギャゥの眺望は絶景。割れ目ギャゥの主要部分は北の一帯で、中心部は道を挟んで反対側の一帯となる。エルドギャゥは935年に噴火が始まり3−8年続いた噴火割れ目で、19.6立方`もの大量の溶岩を流出させた。有史以来世界最大の玄武岩質溶岩流噴火である。噴火により219Mtもの二酸化硫黄を大気中に放出させたと推測されている。割れ目はミールダルスヨークトル氷河(Mýrdalsjökull)からギャゥティンドゥル山(Gjátindur)まで、南西と北東の方向に30kmも続いている。北の端附近は幅600m、深さ200mもあり最も印象に残るギャゥとなっており、その変化に富んだ光景は畏怖心を起こさせるほど。晴れた日にギャゥティンドゥル山(標高943m)の頂上からの眺望は絶景。割れ目は多くの箇所で分断され、ところどころで途切れているがそのいろんな箇所で溶岩や火山物質を産出してきた。ヘルズブレイズ山とミールダルスヨークトル氷河の中間点に当る最も南寄り一帯の溶岩はアイスランドへの定住が始まったころ(870年頃)のもの。また、北部と中央部のものは700年ごろの噴火によるものでスカ二タアゥ渓谷に大量の溶岩を流し込んだ。割れ目の幾つかはミールダルスヨークトル氷河の氷冠や1783〜84年に噴火したラーキの溶岩流によって蔽い隠されている。 ★オゥファイルフォス Ófærufoss エルドギャゥには北オゥファイラ(Nyrðri−Ófæra)と南オゥファイラ(Syðri−Ófæra)の二つの川が流れていて、北オゥファイラ川は二つの印象深い瀑布となって割れ目に流れ込んでいる。オゥファイルフォス(Ófærufoss)の滝は珍しい二重滝で下部の滝の上部に緩やかにカーブしているアーチ状の天然の橋が架かっており、この橋の部分は玄武岩で、溶岩縁から流れ落ちる川によって軟らかい岩が洗い流されてできたもの。 ★スカフトアゥ Skaftá ヴァトナヨークトル氷河の南西端にあるスカフトアゥルヨークトル氷河(Skaftárjökull)に源を発する力量感溢れる氷河川でその河床は広く、苔に覆われた溶岩底となっている。
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Revised:05/12/19