“黒魔術”を教えているソルボンヌの“黒い学校”では、悪魔は自らが校長で、ここでは魔術や古代の神秘を教えていました。学生がこの学校を卒業するとき、悪魔が最後に学校を去ることになった学生を自分の元に留め置く習慣がありました。サイムンドゥルが彼の卒業仲間の中で最後に去ることを志願したので、彼の仲間は悪魔の手から救われることになりました。彼は両片がだぶだぶした、ボタンが全部外れた大きなコートを着用していました。ドアのところで、悪魔は「お前は俺のものだ」と云ってサイムンドゥルを引っつかみました。しかし、着ていたコートがだぶだぶで、コートだけを捉えることになったのです。これに悪魔が気づく前にサイムンドゥルは逃げ去ることができました。
黒い学校を卒業した後、サイムンドゥルは魔術の技を磨き、習熟を極めたので悪魔を自分の下働きにして様々な用事に使えるようになり、更に悪魔を巧みに操ったので悪魔は何もできなくなり、彼に問題を起こす事は何もありませんでした。
サイムンドゥルはオッディの聖職に任命されることを願っていました。それは叶えられることができそうでしたが、教会の執務室にはかなりの候補者がいたのです。その時、まだ外国にいたサイムンドゥルはでき得る限り速やかに教会に戻りたいと思いました。彼は悪魔を呼び寄せると「私と一緒にアイスランドまで泳げ。もし、お前が私の法服を濡らすことなくアイスランドの海岸まで連れて行ければ、私はお前の意のままになるであろう」と云ったのです。悪魔は彼の言葉を信じて、自分をアザラシの姿になりすまして彼を自分の背中に乗せて泳いだのです。サイムンドゥルは途中ず〜と旧約聖書の詩篇を読み続けていました。やがて、彼らはアイスランドに近づいてきました。そこでサイムンドゥルはアザラシの頭を詩篇で叩くとアザラシは沈みました。サイムンドゥルは水中に放り出され、陸に向かって泳いで、水浸しになって岸に辿り着いたのでした。こうして、悪魔は取引に破れ、サイムンドゥルはオッディの聖職者の最高の地位ファーザーを得ることができました。
あるとき、司祭となったサイムンドゥルは悪魔にどれだけ自分を小さくできるか尋ねたところ、悪魔は小昆虫ぐらい小さくなることができると答えました。そこでサイムンドゥルはドリルを取り出して、柱に穴を開け、悪魔にその穴の中に入るように云いました。悪魔は云われるとすばやく穴の中に入り込みました。するとサイムンドゥルは穴を栓で塞いでしまいました。
悪魔は大声でわめき、金切り声で悪態をつき、慈悲を懇願したのですが、サイムンドゥルは悪魔が彼のために働くこと、そして彼が願うものは何でもすることを約束するまでは栓を抜くことはしませんでした。こうして、サイムンドゥルは彼が願うことをすべて悪魔にさせることができるようになったのです。
ある時、サイムンドゥルは牛飼いが足りなくなり、悪魔にその仕事をさせました。冬が進むにつれ、悪魔は見事に仕事をこなしていましたが、サイムンドゥルがイースター・サンデイの聖祭ミサを祝賀しているとき、悪魔はたい肥のすべてを移動させ、教会の入り口の扉の正面に置いたのです。それで、聖職者はミサを終えた後も教会の外に出ることができなくなりました。サイムンドゥルは悪魔を呼び寄せ、扉の前のたい肥を跡形無く取り去って、元の場所に戻すように命じたのです。悪魔が自分の舌で最後の痕跡がなくなるまで舐めさせるほど彼の言い方は非常に厳しかったのです。悪魔がひどく舐めたので、教会の扉の前にあった敷石に穴を開けてしまいました。この敷石は、元の大きさの四分の一になってしまいましたが今でもオッディに存在していると云われていて、悪魔の舌でできた穴がはっきりと見て取れます。悪魔は賢人サイムンドゥルに対ししばしばひどく激怒しました。サイムンドゥルがいつも自分を打ち負かすやり方に憤慨したからでした。悪魔は仕返しができるようなことは全部やったのです。一度、悪魔は蝿に変身し、司祭の食器の中の牛乳に張った膜の下に隠れたのです。司祭の身体の内部に入り込んで彼を殺そうと企てたのです。しかし、サイムンドゥルは蝿を見つけ、牛乳の膜の上に取り上げ、羊膜の中にがんじがらめに固定し動けなくした上に、それを梱包して教会の祭壇の上に置いたのです。こうして、蝿となった悪魔は司祭が次の礼拝を執り行うまで中から抜け出せなかったのです。ミサが終わると、司祭は梱包を解いて悪魔を解放しました。悪魔は父サイムンドゥルがミサを司宰している間ず〜と梱包された荷の中に閉じ込められ続けた以上の惨めな思いは無かったのです。
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